
前作『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』は割と軽快に読める本だったので油断したが、今作は私のような不勉強者にとっては難解であった。特に軸となっている「アートークン」と「招き猫アルゴリズム」の概念がまるで理解できなかった。クソみたいなドット絵をSNSで掲げて大喜びしていたNFTまわりの連中の延長線上にある世界という感じで、基本の知識としてブロックチェーンとNFT、貨幣論などを理解していないと消化不良になる。とにかく、本当にこんなディストピア的社会になったら発狂しそうなので、畜肉や油をふんだんに使った料理を酒と一緒にあばれ食いするなどの不健康を極めていち早く消極的自決をキメ込みたい、と願いながらウンザリして読み進めた次第だ。
さて、といった感じでここからは論の主軸が理解できなかったものとしての感想文となるが、前述の絶望感とはうらはらに、こういった社会が訪れることはまずないのではないか、と思っている。まず、この社会システムを理解できる人がそんなにいないと思われる。そもそも、脳を含めた人間の内臓はここ数百年まったく進化していない。最近急激に技術が発達しているが、突然変異のマイノリティたるアタマのよろしい人達の考えることに、「人間の本質層」たる凡人庶民が、そろそろついていかれなくなっているのではなかろうか。社会を覆い尽くす何某かは、マジョリティの総意がなければならない。私がブロックチェーンやNFTを理解できないように、マイナンバーやインターネットを理解できない人もいる。非常に先の話―22世紀の話であるとは銘打たれてはいるものの、その理解の進まなさは、脳改造された新人類のようなものが流行しない限り変わらないと思っているが、そこを押し通すための道筋はふわっと「じきに全てデータになる」とやり過ごされていて、いまいちよく分からなかった。日本共産党の人が、どうやって日本で理想の共産主義社会を実現するのかを問われ、その道筋を曖昧にしか答えていないのに似ている。そんな不確かな未来の社会構想だ。
ただし、一部の先進的な人たちだけがやっていた初期のパソコンが、複雑な概念をわかりやすくパッケージしたWindows95の登場で私のようなたわけ者でも扱えるようにあまねく広まったのと同じように、このアートークンや招き猫アルゴリズム的概念を分かりやすく翻訳する何某かが生まれたら、もうそれは分からない。これからおそらく、デジタルネイティブなZ世代の次のAIネイティブのなんたら世代が来るのだろう。私はどうしてもAIは「文化無き愚者の外付けCPU」としての使われ方しか想像できないので、AIネイティブ世代が私を時代遅れの老害扱いしながら「アートークン」や「招き猫アルゴリズム」を駆使してハッピーに暮らす社会が到来するのかもしれない。
とにもかくにも、まるでディストピア小説を読んでいるかの如く陰鬱で救いの無い未来の話が書かれた本だ。こうなるくらいなら、アーミッシュのように文明拒否の方向に向かったほうが、まだ夢があるような気さえしてくるのである。
アタマのよろしい方々はしばしば、私たち愚かな庶民が少しでも安楽に暮らせるようアレコレと社会システムやら思想やらを構想してくださる。しかしながら、これはもはやありがた迷惑なのである。「お金がある社会」は「価値を測る社会」で、「人と比べて劣等感に苛まれたり争いが起こったり、そうして苦しむ人がいる社会は良くない」、といった趣旨で書かれているが、私にはむしろそうやって苦しむこと自体が、苦しみたくないと思いながら苦しむことを欲しているのが、人間という生き物の本質なんじゃないかと思えてならない。毎日不快な情報が垂れ流しになっているテレビやSNSにどっぷり浸かって怒ったり憎んだり蔑んだり溜飲を下げたりしている人はごまんといる。人に嫌がらせをしたり喧嘩したりすることでイキイキと活力を漲らせる人がいる。自慢をしていい気になったり、人を出し抜いて一人いい思いをしたりすることに生きがいを覚える人がいる。こうした感情の動きが奪われる社会ということである。アタマのよろしい人達からすると非合理に見える庶民のこうした営みこそが人間の本質である。なんとなれば頭のよろしい人は少数派、マイノリティなのであるから、この人達が考えてくださる社会が私たちにフィットするとも限らないのだ。(たいていの場合、考案した人たちが一番得をする社会であることが多い)
しかし一方で、我々庶民は「高学歴卒」の肩書を持つ人を無根拠に崇拝し、ひれ伏してしまうことがある。アタマがいい、という極めてざっくりとした表現で、対象を全肯定し、自分を卑下してしまう。それは本当に正しいことなのか。
「アートークン」だの「招き猫アルゴリズム」だのを取り入れなくても、「そこそこ価値を測らずにいられる社会」は作れるのではないだろうか。それこそ自分の心の持ちよう次第で。


コメント